四季一筆

徒然に。

如月三日、弱虫の逆

息子と「弱虫の反対は何だろう」となって、結局そんな言葉を見つけられなかった。その後、息子は豆まきの豆を大方平らげて、晩ご飯のとき食べすぎたかも、お腹いたい、とか言っていたのも忘れ、「弱虫の反対」も忘れ、ケロッとした顔で本を読んでいた。
 
◇ ◇
 
気になって調べてみたが、これという言葉も見つからない。敢えて云えば、「勇敢」とか「勇ましい」となるのだろうか。
 
・あいつは弱虫だ
 
・あいつは勇敢だ
・あいつは勇ましい
 
ん〜、そうなんだけど、何だかしっくりこない。
 
◇ ◇
 
しばらく考えて気づいたのは、「弱虫」というのは比喩的ではないかということ。あいつが簡単に踏み潰してしまえる虫ケラのように弱いという、「○○のようだ」という言葉であるのに対して、「勇敢」「勇ましい」というのは直接的な言葉だ。何か「勇敢」という存在があって、それに似ているから勇敢なのではなく、まさに「あいつは勇敢だ」なのだ。
 
「弱虫」というのは、弱いものを罵っていう語で、意気地なしということ(スーパー大辞林)。では、この「虫」て何だろうと調べてみると、
 

むし
【虫】
(9)ある特定の性向をもっている人。他の語と複合して用い、その人をあざけっていう。「泣き―」「点取り―」
 
三省堂 スーパー大辞林3.0
 
だそうだ。つまりこの場合の「虫」には、昆虫という意味合いよりも「あざける」という意味合いが強い。
 
なるほど。嘲る(あざける)言葉か。そういえば、嘲り言葉というのはたくさんあるなぁ、と思う。「弱虫」の類語だけでも
 
・意気地なし
・腰抜け
・懦夫
・不甲斐ない・腑甲斐ない
・腑抜け
・怯弱
・怯夫
・弱者
・敗者
・弱味噌
 
という具合に、これでもか、と辞書には並んでいる。こうやって書いていて、半分くらい知らない言葉なんだけど、何だか自分が罵られているような気分になってくる。そして眺めていて気づいたのは、これらの言葉は、言っている人間が上から目線でどやしつけている風で、言っている人間がその瞬間に優位に立つのに役立つ言葉なんじゃないかな、と。
 
もうちょっと考えてみると、「この弱虫!」と言っている人間が言われている人に対して優位に立つのではなくて、「この弱虫!」と言っている人間が目の前の「弱虫」と自分とを比較して、ほら差があるでしょ? オレの方が上でしょ? と周囲にアピールすることで、周囲に対して自分の優位性のような一種の幻想を振りまくために活用しているツールとしての「この弱虫!」なんじゃないかなぁ、とか思ったのだった。
 
「オレて価値あるでしょ、コイツに較べたらさぁ」
 
◇ ◇
 
「勇敢」にも同じくらい数の類語があるんだけど、日常ではあまり使わないなぁ。やっぱり、「弱虫」というのはラクして自分をよく見せるのに便利なのかな。