四季一筆

徒然に。

弥生十日、甘口のポークカレーライス

唐突に甘口のカレーライス、それもポークカレーを食べたくなった。
 
◇ ◇
 
当時はレトルトカレーの種類は少なくて、そもそも親がレトルトカレーなんて信用していなかったから、子供の頃のカレーライスは自宅の台所で作られるのが普通だった。カレールーを買ってきて、という程度なんだけど。うちはいつもエスビーのディナーカレーだった。
 
ディナーカレー | S&Bカレー史 | S&Bカレー.com
http://www.sbcurry.com/history/dinner/
 
ただし、市販のカレールーを使うにしても家独自の添加物が色々と入っていて、刻みニンニクで香りが強めになっていたり、月桂樹の葉が使われていたりなんて工夫があったし、子どもの嗜好なんて無視して大人の口に合わせた味付けだから、甘口なんて食べたことはない。
 
その所為で、大人になってからの面倒くさがり故にレトルトカレーの世話になるときにも、辛口を選んでいた。
 
◇ ◇
 
小学校の給食では、カレーライスを食べた記憶がなくて、カレー味といえばカレーうどんくらいだったかな。甘口のカレーライスを食べるようになってしまったのは、大学の学生食堂のカレーであり、会社の社員食堂でだった。安い、早い、簡単という三条件がそろっている。
 
セルフサービスで、注文するとすぐに出てきて、掻き込むようにして食べ終わることが出来る。食欲がなくてもカレーの香りで何とか食い物を腹に詰め込むことが出来る。麺類のように汁に気を配る必要もなく、よそ見をしていてもスコップで石炭を放り込むようにスプーンで食べることが出来た。つまり、何かを読みなが食べるのに向いていた。言ってみれば戦闘食のようなものだった。
 
◇ ◇
 
結婚して後、自宅でカレーといえばレトルトで済ませている。作る煩わしさがないし、味も悪くないし、洗い物は出ない、残り物も出ない、各自に合わせた辛さを用意できる、ということで。
 
まあ、味気ないと云えば味気ないし、「我が家のカレーの味」というやつが子どもの味覚に育たないという不安のようなものもある。小学校高学年になろうかという息子と話していると、私達の子供時代の常識的感覚とは息子のそれが全然違ってきているように感じるのは、もしかして、カレーライスをレトルトで済ませてしまうような“怠惰”さが原因なんじゃないか、と思ったりする。
 
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そんな危惧のようなものが心底にあるのか無いのか、ともかく、かつての“戦闘食”として食べていた甘口のポークカレーを食べてみたいな、と唐突に思ったのだ。それも、自分で、自宅の台所で作って。できれば、学生食堂や社員食堂で使っているような楕円のプラスティックのカレー皿に、傷だらけで、もしかしたら一、二回曲がったことがあるんじゃないかと思われるような、くたびれたステンレスのスプーンで。
 
そしたら、今度は、ゆっくりと食べることにしよう。