四季一筆

徒然に。

検索という拙速


N県S市に行って夕方に店で食事をしていたとき、窓の向こうには日没後の空を背景に、黒々としたシルエットで、Oホテルがどっしりと建っている。ふたつの太い塔があって、それぞれに丸い時計の文字盤のようなものがついている。向かって右側の塔のはいかにも時計らしい時計なのだが、向かって左側の塔にあるのが正体不明。暗いシルエットになっているのと、私がひどい乱視なのとが相まって、文字盤にある目盛りが8つなんだか9つなんだか、ともかく12個ではない。そして針は一本だけで、それがほぼ真下近くに向いている。
 
息子はチャンポンが、私はすき焼き風うどんがやってくるのを待ちながら、針が一本のあの時計みたいなやつは、一体なんなんだろうという話になった。小学生の息子は即座に「こわれてるんだよ」と断定。「もう一本の針は落ちちゃって、時計自体が壊れているから今の時間とは関係なくて、そのまま修理してないんだよ」。Oホテルの人が聞いたら悲しみそうな発言で平気な顔をしている。
 
あんな立派できれいな堂々とした建物なのに、修理しないなんてみっともないことはしないだろう。きっと何か特別なものなんだよ。
「でも、さっきから全然針が動いてないよ?」
たとえば、一日に1目盛りずつ進む針だとしたら、一見したところ針は動いているようには見えないだろうね。
「じゃあ、9日で一周りするのか」
いや、例えばの話で、もしかしたら十日にひと目盛りかもしれない。
「えー、それじゃ90日で一周じゃん」
もしかしたら一年にひと目盛りかも。だとしたら、機械で回さないで、一年に何回かひとが上がっていって手で動かしてもいいだろうね。
 
 ◇ ◇
 
そんな話をしながら、ネットで検索すればすぐにも「正解」を手に入れることができるんだよな、と思いつつも、スマホを取り出すことはしなかった。こうやって、息子の頭と私の頭を揉みほぐすのが最近の楽しみになってきている。ようやく、大人と会話らしい会話ができるようになってきたと言えるのかな。
 
 ◇ ◇
 
店を出て車に乗り込む前にググると、針一本の文字盤は風向計らしいことがわかった。なるほど。目盛りは8個で八方位ということか。