四季一筆

徒然に。

皐月十三日、好き嫌いの勘定

夕食の席で、いきなり息子が質問してきた。「テレポート能力が欲しい? それとも飛翔能力がいい?」。おそらくさっきまでプレイしていたマイクラのことだろうと思い、飛翔能力がいい、と応えた。「なんで?」
 
空を飛べるなら、広いエリアを眺め渡して状況を把握しやすいから。「オレはテレポートだな。テレポートだって空飛べるんだよ。空に向かってテレポートしつづければいいんだから」。頻繁に空中を瞬間移動し続けなければならないとしたら、地上の様子をじっくりと観察するなんてできそうにないな。
 
どうやら息子は、運搬の手段として瞬間移動か飛翔か、どちらを選ぶ? というつもりで質問してきたらしい。
 
◇ ◇
 
ジェット機がいい? 戦車がいい?」
 
今度はいきなりこういう質問をぶつけてきた。マイクラとは無関係らしい、ということで私は推測した質問の前提条件から“マイクラ”を削除する。
 
戦車となると兵器だから、ジェット機だと戦闘機とか爆撃機とか攻撃機だろうか。前提条件に“兵器”と書き加える。
 
ん〜、一概には言えないな。最初に制空権を把握するためには航空機が必要だろうし、地上の掃討戦になるなら戦車が必要だろう。その時どきの戦略目標によって変わってくると思うから選べないよ。――「ちがうよ。ジェットだ。ジェット機って、オレ、言った!」
 
この辺で息子の質問がわからなくなってきた。ジェット? ジェット旅客機? なんで戦車と較べるの?
 
◇ ◇
 
質問や指示に対して、ふつうの大人はその目的を問う。大人に質問するなら、質問の意図や前提条件を最初に伝えるべきである云々……と息子には話したのだが、いまいち理解したのかどうか判然としない。小学校5年生だと、まだわからないのだろうか。
 
自分とは違う考えの人がいるということ、自分の知っていることでも他の人は知らないかもしれないということ、そういうことが感覚的に理解できていないらしくて、ときどき親二人から「話がわからない。ちゃんと最初から説明しなさい」と日常的に叱責されている息子だ。
 
小学校という一種の閉鎖空間で、等質化された情報環境で暮らしているから、自分が知っていることならクラスメートも知っていて当然、と思い込んで暮らしていても問題がないのだろう。それをそのまま家に持ち帰ってきて、両親という大人にぶつけるから、たちまち跳ね返されてぶつけられて頭を抱えることになる。
 
◇ ◇
 
この頃の息子の質問に増えてきているのは、この「好き/嫌い」の質問だ。なんでもかんでも「すき/きらい」で放り投げようとするのは、性ホルモンで刺激された扁桃体の仕業かな、と思ったりもする。とにかく目にするもの、耳に入ってくるもの、食べ物の食感や味や匂い、そんなものが分類とか概念とかお構いなしに、一緒くたになって「すき/きらい」判定されているのかもしれない。
 
判定の基準となるもの、つまり判断のプラットフォームとか前提条件とか文脈というものが大切なんだ――と気づいてくれるのは、いつなのかな。
 
◇ ◇
 
具体的な質問なら、それが唐突であっても大人は許す。なぜなら、質問の前提となる話の土台を大人自身が推測するからだ。「ジェット機と戦車」なんて意図がわからない質問ではなくて、たとえば固有名詞のような、既にそのものに前提とか物語性、ブランドなどが多くの人に共有されていて、確固たる意味合いを持っているなら、いきなり好悪を質問されてもなんとかなる。たとえば、
 
ベントレーとベンツ、どちらがいい?」=社会的地位を示威する手段としての車としてどちらがいいか。
 
ベントレーとセンチュリー、どちらがいい?」=要人警護の視点から適切と思われる車はどちらか。
 
のように、同じ「ベントレー」であっても比較対象によって質問の文脈を切り替えて読み解くことができるし、そもそも車なんて興味のない人にとっては、「わからない」という回答が開かれている。
 
子どもの質問には、この「わからない」が許されていない。「ねぇ、だから、どっちかって、たずねてるでしょ!?」(まるで「あたしと仕事と、どっちが大事なのよ!」という詰問と同じだな)
 
◇ ◇
 
大人にとって、好悪の質問には目的とか動機とか前提とかがある。なぜかというと、好悪によって自分に利益を引き寄せようとするからだ。その辺がきっと、大人とか年寄りの証明になるのだろう。
 
そのような“不純な”思いとは無関係な子どもの無邪気な質問は、おそらく質問に形は似ていても、本来の質問ではないのだろう。感情的自己主張の一形式だ。
 
ベントレー モーターズ
https://www.bentleymotors.jp/
 
メルセデス・ベンツ日本 オフィシャルサイト
https://www.mercedes-benz.co.jp/
 
TOYOTA、新型センチュリーを初公開 | トヨタグローバルニュースルーム
https://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/18979315