四季一筆

徒然に。

皐月十四日、学校の怪談の理由(わけ)

ヤオヨロズ、て何?」と息子が訊くので、数がたくさんあること、と答えた。なんでいきなり八百万なんだ? 「うん、べつに」。「“八百万の神々”くらいしか、使わないよね」とカミサン。“八百万の神”というのは多くの神様、あらゆる神様のこと。神道的な世界観だ。
 
そもそも日本語では、「八」とか「百」というのは数が大きいことを表す。たとえば「八百屋」は街なかで本屋と並んで絶滅危惧種かもしれないけど、「青物屋」→「青屋(あおや)」→「やおや」から来たのだという説と一緒に、色んな“たくさんの品物”を扱っているからだとか説があるらしい。むかしにコンビニがあったら、いま頃はコンビニが八百屋と呼ばれていただろう。
 
ほかにも、「八百八町」だとか「八百八橋」だとか、「嘘八百」なんてのもある。
 
日本語では沢山あることを表すのに「八」とか「百」という字をを使ってきた。さらに数が大きいのを表すには「八」と「百」、さらに「万」を付けて「八百万」なのだろう。
 
◇ ◇
 
人がランダムに何かを記憶できる個数が5〜9個だそうで、その平均が7なのだそうだ。だから、物を数えるときには、
 
1、2、3、4、5、6、7、いっぱい!
 
となる。もちろん、指折り数えてやれば10まで数えられる。だが、それだって 10×10=100(百)で手一杯だ。手の指十本と、さらに足の指十本まで動員することで十進法の体系1人前で数えられる最大数が百。それ以上だと文字通り“足が出る”。
 
ちなみに「万」は100×100なので何となく「たくさん!!」が気持ち的に分かる気がする。ともかくものすごい数の神様ということで「八百万の神」ということだ。
 
◇ ◇
 
たくさんの数を表すということでは、「九十九(つくも)」という言葉もある。「九十九髪(つくもがみ)」は
 

大辞林 第三版の解説
つくもがみ【九十九髪】
 
老女の白髪。 〔水草ツクモに似ているからとも、また伊勢物語の歌「百年ももとせに一年ひととせたらぬ−我を恋ふらし面影に見ゆ」から九十九を「百」の字に一画足りない「白」として白髪にたとえることからともいう〕
 
なんて具合に「百」が登場する。
 
“つくも”ではないけど、長崎県には「九十九島」(くじゅうくしま)という風光明媚な多島海がある。「百」にひとつ足りないけど、ともかく数が多いということだ。ちなみに本当に島が99個あるわけではなくて、実際は200島ほどあるそうだ。
 
ああ、そういえば「八重(やえ)」という沢山を表す言葉もあるなぁ。「八重山諸島」とか「八重咲き」に「八重歯」。
 
英語では「have one over the eight」(8杯以上飲んだ)で「(酒を)飲み過ぎる」の意味。8杯以上は沢山すぎて把握できないということか。やっぱり地球人類にとって「8」というのは把握不可能な領域を象徴する数字なのかもしれない。
 
◇ ◇
 
八百万の神」と「つくも」で「付喪神(つくもがみ)」を思い出すわけだけど、これは無生物であるはずのものに魂のようなものが芽生えてしまうという、いってみれば一種のシンギュラリティなんじゃないかと思うわけだ。
 
つくも‐がみ【付喪神
 
100年を経過した器物に宿り、化けたり人に害をなしたりするとされる精霊。
 
こちらでもやっぱり「百年」ということで「百」がキーワードになってくる。そもそも日本には悪魔なんていないんじゃないか、全て神様扱いなんじゃないかと思うわけだが、この「付喪神」の方々も一種の神様のようなもので、もちろん「器物」に宿るわけだから結果としてものすごい総数になる。つまり「八百万の神」ということだろう。
 
▼卯月二十六日、みんな神様
http://d.hatena.ne.jp/kikai-taro/20180426
 
いっぽうで、「作物所(つくもどころ)」という宮中の備品とか調度とかの工房組織があったらしくて、その「作物(つくも)」と沢山の意味の「九十九(つくも)」と、「八百万の神」という世界観とが何かの化学反応を起こして「付喪神」というものが誕生したのかな、どうなのかな、て、これは勝手な推測です。
 
◇ ◇
 
ともかく、百年経つと事物が自律するというシンギュラリティを迎えるわけだけど、たとえば学校のようなところは、生徒一人ひとりがそれぞれの思いや感情を抱いて過ごすわけで、そうなるとそこに渦巻いているのは生徒全員の「のべ時間」なんじゃないかな、と思った。
 
たとえば一学年百人の生徒が一年間過ごした「のべ時間」は、物理時間の1年間で簡単に百年間を勘定することになる。
 
ほら、1年でシンギュラリティが到来する。
 
ということで、学校には色々な精霊が発生しやすいという条件がそろっているので、怪談が生まれやすいのではないか――というきょうの食卓のオチでした。