四季一筆

徒然に。

卯月十七日、知らない季節

西から雨が近づいているという天気予報の通りに、夕方から雨が降り始めた。桜の花はとうに散ったこのところ、数日おきに雨がやってきているのは、いわゆる「穀雨」に相当するのだろう。二十四節気穀雨は今週金曜日だ。
 
◇ ◇
 
私は田舎の小学校だったので、クラスメートの家の田んぼを借りて、田植え、草取り、稲刈りの授業をやった。たぶんその子の家は地元の地主で、広い水田を持っていたし、何よりも家が“お屋敷”と言えるくらいに立派だった。
 
ほかにも、普通に「本家」とか「分家」という言葉が子ども同士の話に出てきていたし、いま思えば本当に田舎だったんだと思う。うちが酪農家という子もいたし。
 
そんな田舎の山林を切り開いて造成された新興住宅地の子ども(私)と、昔からの地縁の上に成り立っている農家の地主さんちの子どもとが、同じ小学校の中で自然に交りあって暮らしていた。だから、遊び場は住宅街の公園だったり、小川やワサビ田や田んぼのあぜ道だったり、いろいろだった。
 
◇ ◇
 
晩ご飯の米飯がモチモチしていると私の息子は「おいしい」と言ってすごく喜ぶが、そのコメがどのように育てられているのか、そもそも水田地帯というものがどういうものなのかを知らない。きっと、息子のクラスメートも同じだと思う。
 
社会科で「代掻き」や「田植え」という言葉を知っていても、匂いを知らない。南風が吹くと谷から上がってくる養豚場や養鶏場の匂いを知らない。
 
◇ ◇
 
穀雨が降って代掻きの季節がやってきた。