四季一筆

徒然に。

卯月七日、山にかえる

山に登るのではない。山に還るのだ、と唐突に思った。
 
なぜ登るのかと問われて、そこにあるからと答えた登山家がいたらしいけど、実は登っているのではなくて、帰ろうとしているのではないかと。少なくとも日本人にとっては登るのではなく、帰る、場合によっては還りたいということではないか。
 
最近でこそ沈静化しつつあるのかもしれないが、身の回りに何となく山行きの雰囲気とか情報とかが少し濃くなっている気がする。自分の身の回りだけかもしれないけど。
 
◇ ◇
 
日本の国土面積約38万平方キロのうち 3分の2は森林なんだそうで、ちょっと想像してみれば、見通しの良い隠れるところのない海辺よりも、幾らでも奥底に身を潜ませることが出来る森林、それも山の上の森の中なんて安心して眠れるところなんじゃないかと思われてくる。何といっても、眠りながら溺れる心配がない。
 
◇ ◇
 
もともと登山とかあまり関心がなかったのだが、昨年に誘われて栃木の那須岳に登って以来、カミサンともども山行きに興味を持ち始めてしまい、いまではカミサンのお気に入りのブランドがモンベルになってしまっている。普段からモンベル着てるし、部屋の中には「岳人」とか「山と渓谷」とか「ワンダーフォーゲル」とか「ランドネ」とかの雑誌が置いてある。「ゆるキャン」とか「山と食欲と私」とか……。
 
雑誌やマンガだけでなく、新田次郎を取り出して再読し始めたり、山の怪談の本を古書で取り寄せたりとかしている自分に気づく。
 
どうしてだろ。
 
歳とったからかな。歳をとると、人は山に帰りたくなるのだろうか。だから、山で遭難するのはシニア世代ばかりなのかな。ん〜、これは無意識に人としての種の本能が発動していて、死に場所を探して……まるで、ある日、ふっと姿を消すネコとか象とかのように。
 
それとも、山には何か“気”のようなものがあって、自分の生気・精気を充電するために、山を訪れるのだろうか。
 
◇ ◇
 
ともかく当分のあいだ、この家庭内ブームは続きそうだ。先日は若草山の麓に行ってきたし、モンベルのカタログを眺めているカミサンは高尾山に行きたいと言っているし。
 
まあ、こうやって日本人全体が山行きに関心を持って、そして野営力とか養うことができたら、有事の折にはみんなして山に逃げ込めばいいのかもしれない。一丁ことが起きたら、平地の町々がもぬけの殻になっていたとか。