四季一筆

徒然に。

弥生三十日、寝床の雪原

家族の寝床を用意するにあたって、畳の上に敷布団を敷き、その上に敷布を広げる。夏ならサラサラで風のよく通る麻とかなんだけど、まだ冬の装いのままなので、ふわふわの起毛タイプの敷布を使っている。手触りはまるでチンチラという猫の毛のように柔らかい。色は白。真っ白なので、ときどきそれが雪原に思われる。
 
◇ ◇
 
敷布団を敷いて、真っ白でふわふわの敷布を敷き、その上にペタンと座り込むと、まるで自分がふかふかの雪原の真ん中に座り込んでいるような気分になる。敷布は二人分の広さがあるので、ちょっとした雪景色のジオラマのよう。わずかな起伏の陰影がゆるやかに連なり、広がり遠ざかる。
 
そんな雪原に座り込んでじっとしてみると、家族が立てる音も遠のいて、耳の中のピーンと張りつめた耳鳴りだけが残り、ほんとうに自分はひとりきりで、人里離れた雪山の中の林間に空いた、ちょっとした広場にいるんじゃないかと思われてくる。
 
シンとした気持ちで黙ってみる。
 
◇ ◇
 
いや、耳鳴りといっても加齢で増えてきたやつなんだけど。
 
◇ ◇
 
まあ、そんな雪原ともそろそろおさらばな季節がやって来たか。寝床に入った息子は、暑いのだろう、しばらくのあいだ寝床でバタンバタンとやっていた。チンチラの敷布を、薄くて軽いシーツに取り替える季節がやってきた。
 
ちなみに、息子は同じような素材の“チンチラの毛布”を使っていて、これは夏でも手放さないくらいに気に入っている――というか、既に“安全毛布”となっているらしい。朝は、この“チンチラの毛布”を頭からかぶり、ロダンバルザックのような感じで起きてくる。たとえ、真夏でも。
 
いつになったら手放す季節になるのだろう。