四季一筆

徒然に。

如月十四日、洗濯機と軍用ヘリとヒバリ

部屋で仕事をしていると、部屋の外で遠いヘリの音がした。
 
ヘリコプターの飛ぶバタバタとかトクトクという音は、春の畑の上を飛ぶローターがふたつの軍用ヘリとか、小さな双発のプロペラの対潜哨戒機とかの、小学校一、二年生の頃の記憶に結びついている。
 
それともこれは洗面所で回っている洗濯機の脱水の音だろうか。
 
◇ ◇
 
小学校一年生の春は幸せだったのかな。
塾に通いだした四年生の春も、ある意味では幸せだったのか。
パタパタという音を聴きながら思い出そうとする。それとも毎日を何とか生き抜いていたのだろうか。そんな精神的な一種のサバイバルのような中にある、幸せのような何かだったのか。
 
やっぱり脱水の音か。
 
◇ ◇
 
畑の中を横切る埃っぽい砂利道を歩いていた。春にはヒバリが畑のあちこちで上がったり下がったりしながらさえずり続けていた。春の日差しとヒバリのさえずりと軍用機の音。
 
私の息子にそんな体験は無いけど、それはそれで東京の子供としての記憶が何か形作られているのだろう。私は私で田舎の子供としての記憶があるわけで、息子には東京の記憶。もう、そうやって別の人間なのだ。すっかり。
 
◇ ◇
 
老眼が進んできているせいか、角川の歳時記の文字が見づらい。かつてよりも目から離さないと文字がぼやける。同じことは手元の手帳やノートパソコンの画面でも同じ。
 
洗濯物を干そうと洗面所に入ってわかった。
やっぱりヘリの音ではなくて、脱水の音だったらしい。