四季一筆

徒然に。

水無月七日、最強の筆記具

 
油性のノック式ボールペンが、自分にとって最強の筆記具となって何年になるだろう。某文具メーカーのノック式の油性ボールペンを随分ながく使い続けている。もちろん、一本のボールペンを使い続けているのではない。パーカーのボールペンだったら、芯を交換しながら同じ軸を使い続けるだろうが、安いボールペンだから使い捨てだ。「捨て」というともったいない感じもするけど、軸は再生プラスティックらしいので、プラごみとして捨てている。再々生することだろう。
 
一本80円と安価なので、60円の替芯はあるみたいだけど使い捨てている。ハードな使い方をするので、インクを使い切る頃には、たいがい、軸が割れ始めているから。
 
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まずノック式である理由は、ペンを書く態勢で持ったままでノックして、ペン先の出し入れが出来るということ。これが大事。例えば右利きで、すぐに書けるようにペンを持ったまま、腕を曲げてペンの頭を肩とか胸とかに当ててやれば、ノックされる。いちいち右手の中で持ち替えて親指でノックすることはない。持ちかえることがないから取り落とすこともない。
 
キャップをはずすとか、軸をひねってペン先を出すとか、ペン先を引っ込めるときには軸の横を押さないといけないとか、そういう「たちどころに書きとめる」「素早く仕舞う」という目的に対する障害は、できるだけ少ないほうがいい。
 
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安価なのは大事だ。これがゲルインクだったり、滑り止めのラバーグリップだったりすると一本80円は難しくなる。安いのでまとめ買いして、家のあちこちに置いておく。カバンやリュックの中にも一本ずつ放り込んでおく。仕事場のペン立てには3本くらい立てておく。読みかけの本や、使っているノートごとに挟んでおく。安いから出来ることだ。
 
一本500円くらいのペンでこれをやると気兼ねしていけない。愛着だとか、使っているうちに味が出るとか、そういうことに興味はないから。すばやく書きつける。ただそれだけのためにある。愛着だとか味だとかは、自分の書きつける文字や言葉に見い出せばいい。
 
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安価な条件としての「ラバーグリップ無し」だが、「非ラバーグリップ」ということ自体が私には重要。時間が経つとベタベタしてくるラバーグリップが大嫌いで、この世から撲滅したいくらいだ。それに、服のポケットへの出し入れにラバーグリップはひっかかっていけない。その点、安価なノック式ボールペンはスムースに出し入れできる。ズボンのポケットに入れておいて落としてなくしても惜しくないし。
 
そうなのだ。ペン先が格納されるというのは、シャツやズボンのポケットに突っ込んで持ち歩くには必須要件なのだ。
 
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かつてはあれこれ試していた。6色ボールペンだとか、ひねるとペン先が出てくるお高いゲルインク型だとか、キャップ式だとか。
 
そもそも、なんで今さら「ペン」なんだよ、とも思われるかもしれない。スマホがあるのに、ペンとメモ帳とか、時代錯誤じゃん。
 
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「やっぱり情報はデジタルだよ」なんてカッコつけてSIIのA4ワープロとか、Visorのような PDAとかノートパソコンだとかを持ち歩いたりなんて20〜30代を送ったりした。だが、やはり素早さを求めると単機能やアナログに落ち着くのだ。
 
写真を取るのならコンデジだし、ICレコーダで会議を録音する。調べ物なら電子辞書。スマホの、スワイプして、ロックを解除して、アプリを呼び出して、ロゴマークが表示されて、ようやく起動して……なんてまどろっこしいことをしていると、いま思っていることを書きつけることができない。眼の前にあるものを撮る・録ることができない。
 
そもそも個人利用の“情報”だから、デジタル化して再利用する必要がないのだ。コピー&ペーストは、文字通りコピー機で複写して、糊で切り貼りしている。それが一番簡便なのだ。電気も電波も不要。ノートを開けばそこにある。そのノートにも、ノート専用のボールペンを挟んである。
 
◇ ◇
 
ということで、私はきょうも三菱鉛筆の SN-80というノック式油性ボールペンを持ち歩いている。