四季一筆

徒然に。

水無月九日、ツメキリ

 
息子の学校で、インターネットやスマホの使い方についての講義のようなものがあったらしい。ネットの、特にSNS絡みの事件がおき続けているけど、小学生のうちに手を打っておこうということだろう。
 
息子には「中学卒業までスマホはダメ」と言ってあるし、息子に使わせているPCはペアレンタル・コントロールをかけて、定期的に利用状況をチェックし、危ないサイトは遮断するようにしてある。そろそろ思春期の男子だから、学校で色々と「検索キーワード」を教えてもらってきているみたいだけど、残念ながらウチからのアクセスはできない。
 
まあ、そのうちプロテクトとか外されちゃうんだろうけど、蛇の道は蛇。親が専門家なので、親を上回るスキルを身に着けたなら、それで食っていけるようになっているだろうから、それはそれで安心なのかも。
 
◇ ◇
 
小学校の頃、親から禁止されていたことがいろいろとあったけれども、大概、そんな障害は回避しようとするのが子どもというものだ。
 
私が禁止されていたもののひとつは、ツメキリのヤスリを使うこと。ぱっちん、ぱっちんと爪をつむ、あのツメキリの取っ手部分についているヤスリのことだ。「そんなものは商売女が使うもんだ」とか言われた気がする。
 
現在の私はプログラムを書く。つまりPCでキーボードを叩くのが仕事なので、指先や爪に気をつけている。キートップに当たる指先にちょっとでも違和感を感じると、手許に常に置いているツメキリで切り、ヤスリで仕上げる。コンマ何ミリの差なんだけど、それをやるとやらないとでは、仕事の時の気持ちよさ・悪さが全然ちがうのだ。
 
ああ、そういえば、「パソコンなんてオモチャだ」とも言われてたっけか。「そんなもので遊んでないで勉強しろ」と。いまじゃ、パソコンのない世界なんて考えられないけど。
 
◇ ◇
 
私が小学生時代に禁止されていたことのもう一つは、新聞を読むこと。
 
いま、そんなことを言ったら受験生から「えーっ!」と言われるだろう。時事問題は受験の必須分野だからね。けれども、いまから何十年も前の私は、「子どもが新聞を読むなんて生意気だ」と言われていた。
 
なので、半世紀以上生きてきた今でも、いったい一日のうちのいつに新聞を読んだらいいんだろうかと、つねに迷っている。そして自分以外の誰かが同じ部屋にいると、新聞を読むことがひどく恥ずかしく感じられるのだ。困ったもんだ。
 
おかげで、毎日配達された新聞は、読まないまま古新聞となって積み上げられていく。新聞販売店に寄付しているようなもんだな。
 
◇ ◇
 
夜に、急ぎの仕事でプログラムを書いているとき、キートップに爪がカツカツと当たる。思い出すのは、子どもの頃から言い聞かされてきた「夜、ツメを切ると親の死に目に会えない」というやつ。
 
あ、でも、親は死んじゃってんだ……。
口角を上げながら爪を切り、ヤスリで仕上げる。
 
ひどい息子だ。