四季一筆

徒然に。

皐月三十一日、歳をとれない世界

「一億総活躍」て、最近聞かないんだけど、どうしたのかな。まあ、病気持ちだとかジジババになっても働かなきゃいけないんだとしたら、生き地獄の一種かと。
 
きのうは、健康寿命を伸ばして環境に優しく高齢者の自動車事故を減らすには自転車がいいんじゃないか、なのに、自転車業界が昨今の情勢においてもなお沈黙を保っているのはどうしたことか――のようなことを書いた。
 
▼皐月三十日、自転車は弱い
http://d.hatena.ne.jp/kikai-taro/20180530
 
きょうは、年取っても車の運転をしなきゃいけないと思いこんでしまっている心象について考えてみた。
 
◇ ◇
 
ウチの死んだ両親がよく口にしていたことだけど、「オマエの世話にはならないよ」とよく言われていた。これ、お前には迷惑なんてかけないから安心しろ、という意味かもしれないけど、私には「お前のような出来損ないの世話になったら早死にするだけだし、そもそもそんなこと、私らのプライドが許さない」と聞こえて悲しかった。確かに出来の悪い息子でした。
 
◇ ◇
 
ひとによって色々な理由とか思いとかあるだろうけど、「子どもの世話にはなりたくない」「子どもに迷惑をかけたくない」という思いを抱いているジジババは多いんじゃないかな。私だって、年取ってから息子にまとわりつくような生き方はしたくないな、と思うのだ。
 
人に頼りたくない。自分だってまだまだ色んなことを自分でできるんだ、と自分を鼓舞して自動車を運転してブレーキとアクセルを踏み間違える日々を迎えるのか。
 
◇ ◇
 
1960年頃の日本人男性の平均寿命は約65歳。女性で70歳。いまから見ると、けっこう若いうちに死んでいた。だから、“周りに迷惑をかける”時間も短かったと思う。
 
いっぽう、2018年の現在、平均寿命は男女で81歳、87歳。死ぬまでの時間が15年以上長くなった。しかも、子どもに迷惑をかけたくないと思うと、一人で頑張らなきゃいけない期間がさらに長くなるだろう。
 
だから、無理をしてしまう。とにかく頑張らないといけないと思ってしまう。少しでもいいから他人からの、社会からの敬意を保ちたいとも思う。でも、肉体も頭脳も確実に衰えていくから、無理をするとボロが出る。ブレーキとアクセルを踏み間違える。そういう不甲斐ない自分にイライラして、電車の中や駅のホームで暴れてしまう。
 
◇ ◇
 
頑張らなくていいんだよ、出来なくてもいーんだよ、ジジババなんだから、という感覚があれば、最初からボロを露呈して力を抜いて笑って生きて逝けるのかもしれない。でも、「出来ない」と言うのは恥だと思うような真面目な人が多いから、どうしても頑張ってしまうンだろうな。
 
なんだ。「一億総活躍」なんて、実はそういう真面目な人の弱みにつけ込んでるだけじゃないか。人の足元見やがって――とか言ったりしない。だって、真面目だから。