四季一筆

徒然に。

皐月三十日、自転車は弱い

高齢者の運転で死傷事故が報道されるのが珍しくない。茅ヶ崎の90歳とか立川の85歳とか、本当に痛ましいというか、おそらく他人事ではない。実際、私の父親も80過ぎても運転して、車庫入れに失敗して塀を壊すとかやらかしている。離れて暮らしていたので知らなかったのだが、酸素吸入しながら運転していただなんて、ほんとにやめてくれ! と思う。(ご安心を。父は2年前に病死しました)
 
◇ ◇
 
こういう事件があってもなお、自転車系の「◯◯協会」のような団体から、何かの声明が発表されたとか聞こえてこないのは、一体どうしたことなんだろうと思う。
 
もう足腰弱ってどうしようもない年寄りならいざ知らず、これからそういうジジババ世代に突入しようとしている私たちのような世代には、それこそ予防医学的なサイクリングとか自転車利用というものが必要なんじゃないか、と思う。
 
いやいや、足腰弱りかけのジジババ向けの自転車だって、やろうと思えばできるんじゃない? 少なくとも、コンセプト・サイクルなんて発表してはどうなんだろ。
 
◇ ◇
 
かつて都内をオートバイで走っていたのでよくわかるのだが、一人乗りの乗用車の多いこと多いこと。これ、全部無駄だよな、と思う。空間と燃料と時間、そして医療費の無駄。地下鉄つかえよ。近いなら自転車使えよ。カッコつけたいならタクシー呼べよ。歩けよ。
 
近場の用事なんて車を出すまでもなくて、自転車で十分に間に合う。通勤だったら、実際のところ片道10キロくらいなら自転車で往復するのは十分に現実的だ。地下鉄で通勤するのと時間はかわらない。
 
地下鉄も自転車も同様に汗をかくのなら、気持ちの良い汗をかけばいい。冬の地下鉄でもびっしょり汗をかいているのは、楽して移動したいからみんな電車を利用しようとして混むからだ。
 
◇ ◇
 
「わたし、坂の町で育ったから、自転車乗れなくて」なんてうちのカミサンのような人は三輪とか四輪の自転車に乗ればいい。脚力に自信がないなら電動アシストにすればいい。業界が開発すればいいし、行政はそういう自転車利用を前提とした街づくりを進めればいい。
 
けど、そうはならない。ようやくいくつかの自転車専用レーンができましたみたいな感じだけど、「やってます感」を演出するためのポーズにしか思えない。取り敢えず努力してます、て。
 
◇ ◇
 
そもそも町の自転車屋さんからして、やる気があるんだか無いんだか、ともかく自転車を売るだけしかやっていないみたいで、自転車でこういうことができます、こういう活用の方法もあります、こんな町にしたいよね――のような発信が聞こえてこない。
 
なんでだろな〜、と思うわけです。子どもはたいがい自転車に乗ってるし、セレブでなきゃ保育園への子どもの送り迎えは三人乗りの電動アシストだったりするし、スーパーの駐輪場はいつも買い物自転車(ママチャリ)がたくさんだ。
 
自転車の年間販売台数は完成車で約89万台(平成29年=2017年)だ。簡単に言っちゃうと、日本人のほぼ全員が一台弱持っているということになる。日本の出生数が90〜100万人だからね。
 
そんな、誰もが使っている自転車、免許も不要で、海外製の安い輸入自転車もあって、カンタンに乗り回すことができる、そんな便利な道具があるのに、それを活用して健康のためになるからとか、環境に優しいからとか、だから自転車中心のモビリティを作りましょうよ――という声が聞こえてこないのはどうしてなんだろう。
 
◇ ◇
 
そんなことを考えていて気づいた。
 
酒を呑むと自転車に乗れない。たとえ免許不要であっても、酒のんで自転車に乗れば飲酒運転です。罰則です。
 
◇ ◇
 
ああ、そうか。酒飲むと自転車に乗れない、とすると「自転車に乗るから酒飲まない」という人も当然出てくる。健康志向で自転車に乗ろうという人なんかは、アルコールは体に良くないと知っているから呑まない。
 
すると、酒類業界が自転車業界に圧力をかけることもあるのかな、どうかな、と思うわけです。パラハラというやつ。業界間の。
 
で、業界規模について見てみると、自転車の販売額は2017年で約558億円。ちなみに一台あたりの単価は6万2千円ちょっと。
 
いっぽう酒は、2019年の酒税の収入が1兆3千億円ちょっと。税金だけで桁違いに大きい。いろいろあるだろうけど、税率が4割だとすると売上額が3兆2千億円あまりてな感じで、全然違う。
 
酒類業界が軽く吹けば、自転車業界なんて吹き飛んじゃうんじゃないか、て。
 
◇ ◇
 
ということで、そういう力関係の所為で、自転車業界は酒類業界に“忖度”して、「自転車をもっと健康のために活用しましょう」て言えないのかな、どうかな、と思うのだ。
 
あ〜、それじゃ、どうして酒類業界は自動車業界に文句を言わないのか。それは、自動車業界の市場規模は50兆円を超えているから。自動車業界が一吹きすれば、酒類業界なんて吹き飛ぶからじゃないかな。
 
◇ ◇
 
業界規模が大きいということは、行政や政府に対する発言力が強いだろうことは容易に想像できる。だって、それだけ税収増への影響力が大きいということだから。
 
個々人の健康や環境なんてものよりも、まずはお金が大事、ということで、どうやらこの国ではきちんと“市場原理”とか“資本主義経済”というやつが機能しているようですゼ、旦那。