四季一筆

徒然に。

如月二十三日、しゃんとする

どこかのメーカーが出荷前検査をしていなかったのに偽っていたとか、検査の資格がない人間が検査していたとか、品質を偽って売っていたとか、それも老舗といわれるような誰もが信頼していたであろう企業が。
 
今度は、労働時間についての調査がいい加減だったとか、集計結果の比較の仕方がお粗末な間違いだったとか、新幹線の部品が飛び散ったり、軍用ヘリの部品が飛び散ったり不時着したり墜落したり。
 
きちんとやっているつもりでも何だか色々と不具合があって、ほら、きちんとやってないじゃないか、と言われるような事態が散見されるのは、そろそろ人も物も機械も、くたびれてきているのかな、と。
 
十年くらい前だったか、首都高速の下にある駐輪場にバイクを止めておいて、一日の仕事が終わって夕方見てみると、指三本くらいの大きさのコンクリート片がバイクのそばに落ちていて、バイクの燃料タンクにへこみと傷が出来ていた――ということがあった。ほっといたら、それからしばらくして高架の補強工事が始まったけど、そんな具合にあちこち壊れかけているんだろう。
 
◇ ◇
 
きちんとやっていれば、まず間違いないと思われても、そのための仕組みがきちんとしていなかったり、そもそもきちんと考えるところの深みが足りなかったりして、あれこれヌケが出てきている。
 
◇ ◇
 

大辞林 第三版の解説
きちんと
 
( 副 ) スル
(1) 整っているさま。 「机の中を−する」
(2) 正確なさま。過不足ないさま。 「定刻に−集まる」
 
「きちんと」の語源は何だろうと検索してみると、「几帳面」じゃないかというのが出てきた。なるほどねぇ。
 
私的には「奇珍」じゃないかと思ったりする。
 
大辞林 第三版の解説
きちん【奇珍
 
( 名 ・形動 ) [文] ナリ
非常に珍しく変わっている・こと(さま)。珍奇。 「近地に遊歩し、石の−なるものを集むることを好みけり/西国立志編 正直」
 
そもそも人間が「きちんと」していること自体が異常で、通常の人間は結構抜けていたり雑だったりしているのに、いっぽうで一部のスキもなく生真面目にやっているのは珍しくて、一部あざけりの気持ちも込めて「奇珍としている」なんて言っていたのが、いまの「きちんとする」のモトなんじゃないかなぁ、とか意地悪に考えてみる。
 
◇ ◇
 
「きちんと」と似た意味の言葉で「ちゃんと」というのがある。これも語源が不明な言葉に思われる。「ちゃんとちゃんとの○の素」なんてCMが大昔にあったけど。
 
言語的に九州地方である私にとっては、「ちゃんと」よりも「しゃんと」の方に親しみを感じる。意味はどちらも殆ど同じ。
 
大辞林 第三版の解説
ちゃんと
 
( 副 ) スル
完全できちんとしているさま。
(1) まじめなさま。りっぱなさま。 「 −した人」 「 −した商売」
(2) 秩序正しく。まちがいなく。規則どおり。 「 −書ける」
(3) 十分。 「朝食は−食べた」 「 −間に合わせた」
(4) 危なげなく堅固なさま。しっかりと。 「 −立ちなさい」
(5) すばやく。さっと。ちゃっと。 「凭もたれ給へば−退き/浄瑠璃・無間鐘」
 
大辞林 第三版の解説
しゃんと
 
( 副 ) スル
(1) 姿勢を正してきちんとしているさま。しゃっと。 「 −立ちなさい」 「米寿を迎えたがまだ−したものだ」
(2) 内容や態度が整っていて、あいまいなところのないさま。ちゃんと。 「考えに−したところがない」
 
◇ ◇
 
ところで、「ちゃんと」をローマ字で書いてみると「chant」。これ、英語だと歌とか、歌うという意味がある。発音をカタカナで書くと「チャント」。聖歌とかを歌うことらしい。
 
この「chant」の綴りを、フランス語で読むとどうなるか。
 
Google翻訳
https://translate.google.com/#fr/ja/chant%20chant
 
そう。「シャンシャン」なんです。北九州で幼少期を過ごした私は、よく「しゃんしゃんせんといかんっち」と言われていた。もしかして、聖歌隊が背筋を伸ばして「きちんとして」聖歌を歌っているところから「ちゃんと」とか「しゃんと」てのがやってきたとか――
 
んなわけねーか。