四季一筆

徒然に。

皐月二十五日、汗と畳

むかしは、え〜、つまり、今から40年以上前の私が子どもだった頃は、エアコンなんて普通になかった。
 
梅雨から夏、そして秋雨が降り始めるまでの蒸し暑い季節には、ガラス窓は開けて網戸で過ごしていたし、夜も風を通すために、雨戸を閉めてもガラス窓は開けたままだった。雨戸の隙間から風が出入りするという具合に工夫していた。
 
二階の部屋なんて雨戸も閉めないで、いま考えるとすごく不用心だけど、網戸だけで寝ていた。
 
◇ ◇
 
貧乏な平屋住まいで二階のベランダなんて洒落たものがないころ、夏の日差しを避けるために、屋根の軒を延長するようにしてパーゴラなんてものを立てていて、だから、雨が降ってもその下は濡れずに済んだ。
 
パーゴラってのは、サツキとメイが引っ越してきたばかりのとき、サツキが外に立っている柱をグラグラさせた、あれのことね。
 
午後も遅い時間になって熱雷がやってくる。土砂降りと電光と雷鳴とが通り過ぎる間は、パーゴラの下の窓は網戸も開けて、雨で冷やされた風を室内に呼び込んでいた。
降る雨で虫も飛ばないからだ。
 
あ〜、何かほんとに「となりのトトロ」じゃないか。
 
◇ ◇
 
最近では、物盗りの物騒があるし、何よりも窓を開けていると室内で熱中症にあたってしまうからガラス窓は閉めることになる。
 
その窓も、かつては木枠のギシギシと鳴る「ガラガラッ」と開け閉ての音がうるさいやつだった。車輪がレールの上を走ると「ギュルギュル……」なんて音がして。鍵はネジ式のねじ込むやつで、いま思えばよくまあ、あんなチャチなもので済ませていたなぁ、と。
 
アルミサッシなんて見なかったな。
 
◇ ◇
 
エアコンの普及率がキャズムの16%を超えたのは 1975年(昭和50年)のことで、二人以上世帯で 17.2%(※)。そういえば丁度そのころ、私の両親がエアコンを取り付けたのだ。一台だけ。しかも電気代がかかるからということで、使えるのはお客さんが来た時くらいのもので。
 
それが今では 91%を超えていて、当たり前に使っている。というよりも命の危険があるので必需品となっている。
 
◇ ◇
 
最初は大切な一台きりのエアコンだったわけだが、そのうち夏の暑さがひどくなり、住んでいる人間が高齢化して体力が衰え、エアコンも電気代が少なくて済む安価なタイプが出回り、しかも両親の家は航空基地のそばだったので、お国から補助金が出て部屋の数だけエアコンを設置することができたし、窓は全て密閉式のサッシになった。
 
窓を閉め切ってエアコンつけて、テレビでも見て黙ってろ、てことだろう。上空を、パイロットのヘルメットが分かるくらいの低いところを、空母艦載機が飛ぶから、その見返りというわけだ。
 
ま、その話はいいや。
 
◇ ◇
 
まだエアコンがキャズムを超える前、超えてもしばらくのあいだは、夏の蒸し暑さの中でも、ランニングシャツに短パンで過ごしていた。もちろん汗をかく。汗をかいて肌は湿気ってぺたぺたしていたわけだけど、いまほど気にならない。
 
いまはすっかり年をとったし、エアコンが普通についているし、シャワーを簡単に浴びることもできるし(むかしはシャワーもオシャレな家庭にしかなかった)、何よりエアコンがはき出す乾いてひんやりとした空気にスポイルされてしまっていて、暑くてぺたぺたする肌のままで過ごすなんて許せないっ! という気分。
 
けれども、かつてはそれが普通だったんだよなぁ、何が違うのかなぁ、と考えていて思い至ったのが、畳の存在だった。
 
そう。汗ばんだ肌でも、畳の上ではあまりペタペタしないのだ。対して、フローリングは肌に密着してくる。その辺が大いに関わっているんじゃないだろうか。
 
◇ ◇
 
フローリングの床は、見た目がいいし、掃除がしやすい。水をこぼしてもしみ込むことがない。それに、畳と違って耐久性があって「畳替え」が不要だ。そして何といっても見栄えがする。オシャレだ。
 
◇ ◇
 
オシャレなフローリングは汗ばんだ肌に密着してくるので、部屋の空気はひんやりと乾いたものである必要がある。幸いなことにエアコンは安くなっているし、夏が暑くなっているし、世間が物騒になっているおかげで、窓を締め切ってエアコンを回す立派な大義もある。
 
てことで、子どもたちは快適に涼しい部屋で、ゲーム三昧の夏休みを過ごすのだろう。
 
3か月予報が出ました。今夏も暑そうです。
 
気象庁 | 3か月予報
http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/longfcst/3month/
 
(※)
▼[PDF]平成26年全国消費実態調査 - 総務省統計局
http://www.stat.go.jp/data/zensho/2014/pdf/gaiyo.pdf